IAS 37 引当金・偶発事象
引当金の認識3要件と、偶発負債・偶発資産の扱い
「いつ・いくら」が不確実な負債を、どのタイミングで計上するのか。IAS第37号の引当金の認識3要件と測定、そして偶発負債・偶発資産の考え方を、日本基準との違いを交えて整理します。
引当金とは:認識の3要件
引当金(Provision)とは、支払の時期または金額が不確実な負債をいいます。IAS第37号は、次の3つの要件をすべて満たす場合にのみ引当金を認識することを求めます。恣意的な利益調整を防ぐための、明確な歯止めです。
① 過去の事象から生じた現在の債務(法的または推定的)がある/② 決済のための資源の流出の可能性が高い/③ 金額を信頼性をもって見積れる。
認識の判定フロー
引当金を計上すべきか、偶発負債として注記にとどめるかは、次の順で判定します。
- 1Step 1
現在の債務があるか
過去の事象の結果として、法的債務または推定的債務(企業の言動により相手方に生じさせた正当な期待)が「現在」存在するかを確認します。
- 2Step 2
資源流出の可能性は「高い」か
債務の決済のために、経済的便益をもつ資源が流出する可能性が高い(probable、一般に50%超)かを判断します。
- 3Step 3
金額を信頼性をもって見積れるか
上記を満たし、かつ金額を信頼性をもって見積れる場合に「引当金」を認識します。満たさない場合は、偶発負債として注記するか、何もしません。
測定と、代表的な論点
引当金は、報告日に債務を決済するために必要な支出の最善の見積りで測定します。貨幣の時間価値が重要な場合は、将来支出を現在価値に割り引きます。
契約から得られる経済的便益より、契約を履行するための不可避なコストの方が大きい契約を「不利な契約」といいます。この場合、その差額について引当金を認識します。
リストラ費用の引当は、詳細かつ正式な計画があり、その実施に着手または公表することで、影響を受ける人々に「実行されるだろう」という正当な期待を生じさせた場合に認識します。取締役会の意思決定だけでは足りません。
偶発負債と偶発資産
認識の要件を満たさないものは、財務諸表に計上せず、必要に応じて注記で開示します。負債側と資産側で、扱いが非対称である点に注意が必要です。
認識しない。流出の可能性がほとんどない(remote)場合を除き、注記で開示する。
認識しない。流入の可能性が高い場合に注記し、ほぼ確実になって初めて資産計上する(保守的な扱い)。
日本基準(J-GAAP)との比較
引当金の基本的な考え方は整合していますが、推定的債務・割引・偶発資産の扱いなどに違いがあります。
| 比較項目 | 日本基準(J-GAAP) | IFRS(IAS 37) |
|---|---|---|
| 推定的債務 | 法的債務に近い範囲を中心に引当金を認識する実務が一般的です。 | 法的債務に加え、企業の言動から生じる「推定的債務」も引当金の対象として明確に位置付けます。 |
| 割引計算 | 割引を行わない場合も多く見られます。 | 貨幣の時間価値が重要な場合、将来支出を現在価値に割り引いて測定します。 |
| 偶発資産 | 明確な包括規定は限定的です。 | 偶発資産は認識せず、流入の可能性が高い場合に注記し、ほぼ確実になった時点で資産として認識します。 |
Tetsu先生の視点
「引当金は『現在の債務があるか』の一点に尽きます。ここを曖昧にすると、利益調整の道具になりかねません。IFRSは推定的債務や不利な契約まで踏み込み、偶発資産は保守的に扱う——この非対称性を理解すると、財務諸表の“慎重さ”の設計思想が見えてきます。」
※ このセクションはReiwa Accountingの講師による独自の解説であり、公式機関の見解を示すものではありません。